言語と経済

50州からなる連邦国家であるアメリカは、世界有数の産業国です。これは、アメリカの経済システムによるところが大きいですが、そのほかにも、50州どの州でも英語が話されていることにもよります。ビジネス、科学技術、科学研究に限らず、国際政治においても英語が有力な国際語として君臨しているからです。

アメリカ人は技術者や科学者になりたいからといって、外国語の学習に、若い頃の何年間も費やす必要がありません。どうして学ぶ必要などあるでしょうか。一方、母語が英語でない人は、英語を勉強しなくてはなりません。「時間を浪費」しなくてもよい英語話者に比べ、英語を勉強しなければいけない人々は、大きな遅れをとっているのです。英語を母語としない人のほとんどが、英語学習に何年も費やしているにもかかわらず、自分が専門とする分野でも、専門家が書いた英語の文章を読んだり、英語の会議に出席したとき全部理解できたりするというわけにはいかないのです。

歴史も大切

ますます複雑になるこの世界で、科学技術はスピードを増しながら発達しています。いくら若者に何年も語学を学ばせても、英語話者に対して不利でなくなるどころか、かえって不利なるばかりです。学生が語学勉強に費やす何年間という時間は、本当なら歴史、経済、文学、数学、職業訓練、就職市場に費やすことができる時間なのです。これからの世代になればなるほど、語学力は必要不可欠になります。しかしこれからの世代の人の脳も、現在の私たちの脳と同じ容量しかないのです。彼らは、どうやってこの増え続ける知識に対応すればいいのでしょうか。簡単に学習できる国際語がいつでも近くにあるのですから、政治家たちがこの問題に進んで取り組んでくれれば、簡単に解決されるでしょう。国連やEUの政治家が、この言語を各組織の共通の実務言語に選びさえすれば、すぐにでもこの言葉は国際的なコミュニケーションや科学のための世界の共通語になるでしょう。

よく似た政治形態をもつ国の経済成長の格差は、おそらく各国の教育の一般水準の格差がその最も大きな要因です。つまり、就職市場に乗り出す準備として、ある国では若者が学校の英語学習に計2年かけている間に、英語を母語とする国では、もっと高度に経済を発展させているというわけです。

もちろんこのほかにも、政治腐敗からの解放、優れた経済基盤、安定した市場、活発な投資、競争国に対して有利な価格水準などといった、経済成長にとって大切な要因が存在します。

失敗に終わった国際取引

好きか嫌いかはさておき、もはや純粋な国家経済というものは存在せず、世界は地球規模の統合経済へと移っているという現実を受け入れなければいけません。国家間の取引では、売り手と買い手の意思疎通が不可欠です。誤解を避けるため、売り手と買い手がどちらも十分に理解できる言語を使う必要があります。例えばスウェーデン人と日本人のビジネスマンが、たまたまどちらも英語を十分に使いこなせなかったために、商取引がいくつ失敗に終わったことでしょうか。世界35カ国に事務所を抱えるベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所(Internatinal Lawyer Firm Baker MaKenzie)によると、国際取引の失敗の背景にある最大要因は誤解であるとしています。

言語の混乱により、国家間の通商はスムーズに進まず、翻訳には毎年何10億ドルという、巨額の経費がかかります。そして、末端でその経費を支えているのは各家庭なのです。

貧しい国には悪条件の取引をしている余裕はない

語学力が低いからといって、貧しい国々は条件の悪い取引をしているわけにはいかないのです。

世界中の若者が学校でエスペラント語を習うことになったら、ほとんどだれも習得できないような外国語を、何年もかけて一つまたは何ヶ国語も習うことなどなく、自国の経済に直接貢献できるほかの科目を勉強する余裕が生まれるでしょう。そうなれば、教育の一般水準も上がり、生活水準も向上することでしょう。大切だとされる母国語や歴史についてもっと深く勉強する時間も生まれます。

複数の調査結果より、同じ言葉を話す地域間で貿易と投資が増えていることが明らかになりました。エスペラント語の本来の目的は、母語にとってかわることではなく、それらの異なる言語を守り伝える手助けをすることにあるのです。将来、みんなが自国語とエスペラント語を習得した世界やEUでは、もはや言葉の壁など存在しなくなるのです。このことは、間違いなく投資や貿易を促進し、それぞれの地域の繁栄に貢献することでしょう。

自由な人みんなの国際共通語

世界中の人々が自由にコミュニケーションをとれるようになると、アイデアや考えの交流がはじまり、国を超えた結束が生まれるでしょう。これは独裁者の国にとっては脅威です。当然、最初のうちは全体主義政権下にある人々は、自由な人々が使う共通の国際語から隔離されるでしょう。しかし、どの国も国際的な接触なく過ごせるわけがありません。むしろ、エスペラント語は簡単に学べる言語なので、情報を求めている人たちはいくら禁止されていようと、結局エスペラント語を学んでしまうでしょう。

エスペラント語が一般に浸透すればするほど、新しい知識が素早く普及し、新しい科学技術はもっと素早く吸収されていくでしょう。もし学生や科学者が、自分の言語の領域に限らず、それ以外の領域からも広く情報を得られれば、学習と科学が促進されます。今日の科学者の大半は、フランス語や英語、中国語、ロシア語、スペイン語などの自分の母語しか話しません。

誰にとってもよりよくなる - 本当です

どこにも属さない中立的な国際語を使って、みんなが自由にコミュニケーションを図れたら、誰にとってもよいことばかりでしょう。しかし、もしどこかの国の言語が共通の国際語になってしまったら、まずそんなことにはならないと思いますが、万が一そうなってしまったら、結果として言葉の世界に帝国主義が訪れ、他の国の言葉を駆逐してしまうでしょう。そしてこの言語上の帝国主義は、世界中のどの文化も均一なものにし、各国の不満を生み、政治不安を世界にもたらすことでしょう。

EUがエスペラント語を公用語に選べば、他の言語ほど時間や経費をかけずに、子どもたちが学校でエスペラント語を習得することができます。これは貧しい国々にとっても大きなメリットとなるでしょう。さらに、科学技術がもたらす福祉を世界中に普及させる助けとなるでしょう。科学技術がその国でしっかりと根を下ろすためには、新しい科学技術が、首都に住む一握りの科学者によってしか使われないというようなことではだめなのです。

20倍もの言語

アフリカの知識階級の多くは、エスペラント語を支持しています。アフリカが植民地時代から引きずっている言語上の束縛からの自由は、エスペラント語によってしか得られないと言っています。エスペラント語は、また、アフリカの国々が他国と同等な立場に立つ可能性をもたらしてくれるとも言っています。アフリカの人口はヨーロッパの人口とほぼ同じであるにもかかわらず、ヨーロッパの20倍にもあたる数の言語(EUの言語数を100とすると、約2000言語)が話されていることを忘れないで下さい。エスペラント語を導入することは、世界の貧困に苦しむ国々に対して、思いやりと正義を示すことになるのです。貧しい国々には、将来ほとんど役に立たないような英語を、何年間も学生に勉強させている余裕はないのです。エスペラント語が国際語になれば、とりわけ貧しい国同士における国際交流が盛んになることでしょう。アフリカの国々はまだ、同じ大陸の国同士がやりとりするための共通語を、まだ選んでいないのです。

病気で貧しいより、健康で豊かである方がいい

もし私たちが簡単に学べる共通の国際語を使うことに決めたら、みなさんの国も含めた、世界中のすべての国の公衆衛生に大きな影響を与えるでしょう。

まずは次の説明を読んでください。

共通の言葉により、人間の権利に関する知識が、世界中の全ての国に広まるでしょう(前述参照)。社会において人間の権利が尊重されていることは、健康水準の向上へとつながります。すべての人間の権利は、福祉と健康のために保障されなければいけません。人が健康でいる権利は、世界中のあらゆる地域に公平に与えられるべきなのです。

共通の国際語により、新しい医療技術が世界中の国に普及するスピードはさらに速まるでしょう。そして、教育にかかるコストを抑え、医者をはじめ、看護婦、その他の医療関係スタッフの育成を促進することになります。

また共通の国際語の存在は、全ての国の経済成長を促します(前述参照)。各国の健康水準を決定づける重要な要素は、その国の経済と社会的発展です。そして、これらの要素と健康水準は相互に影響し合います。効率のよい医療サービスはその国の経済に貢献し、その国の経済が発展すると、国民の健康水準の向上させる基盤が形成され、そしてそれがまた経済の発展につながり…といったように。

ここでいう基盤とは、学校、道路、鉄道、空港、港、発電所、電力網、上水道、ごみ処理、電話システムなどがきちんと整備されている状態を指しています。


© Hans Malv, 2004