翻訳は簡単じゃない

翻訳にはたくさんのお金がかかります。言語間の違いが顕著なほど、翻訳にかかる費用も高くなります。

翻訳家には、探偵のような仕事も大いに必要とされます。言語が異なれば、語彙のもつ情報もそれぞれ違ってきます。例えば、英語で“his sectretary”と言った場合、秘書の性別ではなく、上司の性別に関する情報を含んでいます。では、フランス語から英語、逆に英語からフランス語に訳した場合はどうでしょうか。英語の“his secretary”に相当するフランス語は“son secrétaire”です。これを逆にフランス語から英語に訳すと“his/ her male secretary ”となります。もし秘書が女性だったら、フランス語では“sa secrétaire”が使われるべきです。しかしフランス語では、どちらの訳語にも上司の性別は含まれていません。英語をフランス語やほかのいくつかの言語に訳す場合、このように秘書の性別を調べる必要がでてきます。名前から多少判断できることもありますが、いつもそういうわけにはいきません。例えば秘書の“Gert Ek”さんは、一体男性、女性のどちらでしょうか。翻訳する際、スペイン語、フランス語、イタリア語など多くの言語では、正確に翻訳するために、性別に関する情報を探し出さなくてはいけません。性別をとり間違えるのは、多くの文化で大変失礼なことだと見なされています。この例は、なぜコンピュータによる翻訳が難しいのかを示す一例です。翻訳に費やされる時間のほぼ50%が、こういった類の難しい問題にとられているわけです。コンピュータが訳せる種類の仕事は、翻訳家の実務時間の10%ほどに過ぎません。質の高い翻訳をしようと思えば、最も優れたコンピュータの能力をはるかに超える創造性と柔軟性が必要です。そうでなければ、EUや国連が何千人もの翻訳家や通訳やスタッフを雇っている意味がありません。私は今までにコンピュータが翻訳した文章をいくつも読みましたが、全くどれもひどいものでした。


© Hans Malv, 2004